ABMとは?ABMの進め方と具体的な施策、Salesforceを活用したABM事例を徹底解説
この記事でわかること
- ABMとは何か、導入のメリットとデメリット
- ABMの具体的な実施方法
- Salesforceを使用したABMの成功事例とツールの活用方法
執筆者 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
B2Bビジネスを行っている企業の方は「ABM」という言葉を一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
ABMとは、あらかじめターゲットを絞ってアプローチを行うことが特徴のマーケティング戦略の一種です。そんなABMですが、実は2000年代初頭に開発されたにもかかわらず近年のDXによって再注目されているのをご存知でしょうか。
本日は、今ABMが注目されている背景から導入のメリットやデメリット、Salesforceを活用したABM導入の成功事例まで徹底的に解説していきたいと思います。
BtoBマーケティングについての基本知識や進め方などについては是非こちらの記事もご参照ください。
参照:BtoBマーケティングとは?戦略の立て方やそのプロセス、成功事例までプロが解説
ABMとは?
ABMとは、「Account Based Marketing(アカウントベースドマーケティング)」の略で、一言で言うと「会社にとって利益が最大化するターゲット企業を正しく選定し、その企業に対して集中的にアプローチを行う」BtoBマーケティング手法の一つです。
特定の企業をターゲットにし、LTVの最大化を目指して企業ごとに最適化された営業・マーケティング施策を展開することが大きな特徴です。また、マーケティング、企画、営業が一丸となってアプローチをすることで利益の最大化を目指すため、各部門での無駄な作業をなくすことができるという利点があります。
ここからは、ABMとよく混同されがちな2つのマーケティング手法について、ABMとの違いを解説していきます。
リードベースドマーケティングとの違い
リードべースドマーケティングとは、リード(見込み客)を単位とした営業手法で、最初は幅広くリードを集め、そこから一定の確率で商談化するというプロセスをたどります。
大量の見込み客に対して同じアプローチを行うため、受注まで至らなかった場合無駄な作業が生まれるという欠点があります。対してABMは初めからターゲットを特定の企業に絞るので、無駄なリソースを割くリスクは低いといえます。
また、営業対象との接点数においても、リードベースドメーケティングでは徐々に減っていくのに対してABMではターゲットとの接点を徐々に増やしていくという違いがあります。
デマンドジェネレーションとの違い
デマンドジェネレーションとは、文字通り営業対象が内包している隠れた需要を掘り起こす一連の活動のことです。見込客の認知や興味関心を高め、受注可能性を上げるために行います。
内包された需要に対して営業をかけていく点でABMと似ていますが、デマンドジェネレーションは営業対象を1社のみに限定せず、スコアリングに基づいて徐々に見込み客を絞っていくという点で異なります。それぞれの手法の特徴から、デマンドジェネレーションは「網」ABMは「銛」と表現されます。
ABMが注目されている背景
CRM・MAなどのテクノロジーの発展と浸透
ABMでは特定の企業をターゲットにする分、膨大なデータをいかに管理・活用し、ターゲットについて深く知るかが成功の鍵となります。
実はもともと日本企業では、優良リードに対して営業が何度も足を運びヒアリングし、案件獲得に繋げるという営業方法が日常的に行われてきました。この方法は顧客の情報を分析しアプローチに繋げるという点でABMと通ずるものがありますが、提案までに多くのリソースを必要とするという弱点がありました。
しかし、昨今は技術の進歩によりMA(マーケティングオートメーション)やCRM(顧客管理)といったツールが普及し、それらテクノロジーの活用次第でマーケティング効率を飛躍的に上げることが可能になりました。
このようにテクノロジーによってこれまでの弱点が克服されたことで、昨今ABMは再び注目を浴びています。
コロナ禍による新規開拓営業の失速
新型コロナウイルスの影響拡大によって、これまで多くの企業において重要な新規開拓営業チャネルである、オフラインの展示会やセミナーなどの実施が困難になり、新規開拓のハードルが一気に上がりました。
その結果、営業活動のオンラインシフトが加速し、CRMやMAの顧客データを活用した既存顧客へのマーケティング活動や営業活動によって、いかに既存顧客のエンゲージメント及びLTVを高めていくかが重要なアジェンダとなりました。
こういった背景から、データをもとに自社にとって重要な顧客を特定することや、その顧客に対して個別営業・マーケテイング施策を展開するABMに注目が集まっています。
ABMで解決できる課題
ABMを導入することで解決できる企業の課題には以下のようなものがあります。
①マーケティング投資の効率改善
ターゲットの企業を具体的にリスト化し個々にアプローチするため、予算や人的資本を特定企業に集中させることができる上、ターゲットは事前に絞り込まれた成約確率の高い企業であるため契約に至る確率は従来の方法に比べ格段と上がります。
また、それぞれの企業に個別に適したアプローチを行うため、PDCAサイクルの高速化が見込め、結果的にROIの向上が見込めます。
②セールスとマーケティングの壁
従来のマーケティング手法では、マーケティング部門が獲得したリードを営業が引き継ぐことが一般的でしたが、ABMでは営業とマーケティング部門が一体となって営業することが必須となるため、部門間のコミュニケーション齟齬がなくなることが予想されます。
その結果、企業に対する熱量を部門間で共有して営業をかけられるため、各部門における無駄な作業や認識の違いによる無駄が省けます。
③新規顧客の獲得に苦戦している
企業単位で顧客を見つけるため、既存の顧客データを使えば潜在ニーズのある領域の、まだ取引実績のない企業を見つけアプローチを行える可能性が高まります。加えて、既存の顧客に関しても関係性を深める中で、更なる課題を特定しアップセル・クロスセルを狙うことが可能です。
ABMを採用するメリットとデメリット
ここからはABM導入におけるメリットとデメリットをご説明します。
ABMを採用するメリット
①効率的に成果を出すことができる
はじめから重要な企業やクライアントに焦点を当てアプローチするため、受注確度の高い企業に自社のリソースを集約することができ、無駄な作業が生まれづらくなります。また、個別に最適化されたアプローチを行うため、PDCAサイクルを早めることができ、成約までの期間が短くなります。
②営業・マーケテイング部門の連携が強化される
成約までの過程では営業やマーケティングが情報共有やアカウントプランなどをもとに一丸となってアプローチを行うことが求められるため、部署間の連携が強化され、コミュニケーション齟齬をなくすことができます。
③長期的かつ大きな利益が見込める
自社にとって利益が最大化する企業にターゲットを決めて施策を展開するため、成約すれば長期的かつ大きな利益が見込めます。
ABMの実施手順
ここからは実際に社内でABMを進めるにあたっての具体的な手順について紹介します。
①社内のデータを整理する
まずは、自社の情報を整理します。整理する対象となるデータには、以下のようなものが挙げられます。
- 顧客データ
- 売上高目標
- 獲得済みのリードに関する情報
- 商談に関する情報
②対象企業とキーパーソンを特定する
対象になりうる企業に目星をつけリストアップし、優先順位を決定します。この時、なるべくLTVが高い企業を選ぶことが利益を大きくするために重要なポイントとなります。考えられる企業としては、例えば以下のような企業が挙げられます。
- 現在、取引額が大きい企業
- 将来的に継続して大きな取引を見込める企業
- データ分析の結果、ニーズがあると考えられる企業
企業を絞ったら、次に企業内におけるキーパーソンを選定します。
キーパーソンの選定にはCRMデータ及び営業ヒアリングによる調査や、セミナーや展示会での名刺交換、外部から情報を購入するといった方法が考えられます。
③アプローチの方法とその内容を決める
キーパーソンまで絞ったら、次に対象企業とキーパーソンへのアプローチ方法を決めます。この時、ターゲットに適したシナリオとコンテンツを作成することが契約を獲得するために重要なポイントとなります。
例えば、どんな役職や部署の相手に対しても同じ訴求方法を行えば、ABMの効果は薄くなることは容易に想像できるでしょう。企業内での連携を図り、相手の部署や役職ごとに異なる訴求ポイントを押さえつつも一貫性のある訴求を行うことが必要となります。
ターゲット企業のニーズを具体的に想定するにはペルソナの設定、カスタマージャーニーマップの作成が有効となります。カスタマージャーニーの作成方法やペルソナの設定については、以下の記事もご覧下さい。
参照:カスタマージャーニー作成の教科書【テンプレート無料公開】
参照:【DLできるテンプレート公開】ペルソナとは?作り方の5つのステップや具体的な活用方法を解説
④アプローチチャネルを決める
ターゲットに対するコンテンツやシナリオを決めたら、それらをどういったチャネルでコミュニケーションするのかを決めます。
前フェーズで検討したペルソナ・カスタマージャーニーをもとにターゲットに対して最も適したチャネルを選定して、施策の実行準備を行います。
DMでアプローチする際はDMの作成、顧問経由の紹介を辿る場合は最適な顧問の選定など検討したチャネルで施策を実行できるための準備を整えます。
⑤状況に応じて補強施策を実施する
最初の施策が上手く行かなかった場合には、アプローチの手段を補強する必要があります。例えば、自社の製品に興味を持ってくれそうな層に自社の広告を表示する機能を搭載したり、優先的に関連性の高い広告を表示したりといった手段が考えられます。その他にも、webやメルマガ、セミナーなどオンライン・オフライン問わず様々な方法でのアプローチが考えられます。
⑥効果測定をしてPDCAを回す
一通りのアプローチが完了したら、効果測定を行い、PDCAを回します。ABMは優良顧客になりうる大きな企業をターゲットに絞ったマーケティング手法であり、ある程度の時間と労力を割くことが前提であるため、結果が出ないからと簡単に諦めるのではなく、PDCAを回し次に繋げることが重要になります。
Salesforceを活用したABMの成功事例
株式会社リンコム
株式会社リンコムは、チェーンストアの実行力アップに特化したクラウド型の「店番長」を主力商品とする会社です。
「店番長」の営業活動のために、元々はSansanで顧客情報の管理をしていましたが、その顧客情報を別システムや分析で使う際に手作業でデータの移行や管理を行う必要がありました。
そこでリンコムはSalesforce社のSales Cloud、MAツールのAccount Engagement(旧Pardot)を導入し、Sansanと連携させることで社内の情報の一元管理に成功します。
その後、ABMを後押しするツールであるSansan Data hubを導入。Sansan Data hubから得られる企業の属性情報をSales Cloud内に蓄積された活動履歴の情報と連携させることで、優先すべきターゲットを決定し戦略的にアプローチするABMが可能になりました。その結果、商談化率はABM実施前から1.8倍になり、商談金額合計も2.5倍にまで増加しました。
HENNGE株式会社
HENNGE株式会社は、SaaS認証基盤「HENNGE One」を主力商品にサービスを展開する会社です。
展示会などで得た新規リードの振り分け・表記の揺れをほぼ手作業で行っていたため、すぐにアプローチを開始できないという問題を抱えていました。また、マーケティングはMarketo、営業はSalesforceを使用していたため両部門の管理しているリードが紐づいておらず、アプローチの優先度を判断しにくいという問題もありました。
そこで、FORCASを導入。SalesforceとMarketoをFORCASを挟んで連携し、Salesforceのリード情報にFORCASの企業データが紐づいたことで、アプローチ優先順位を可視化することができました。その結果、非効率な営業を減らすことができ、セールス一人当たりの生産性向上に成功しました。
出典:Salesforceとの連携で、セールスとマーケティングのデータ活用の壁が解消。リードへの迅速なアプローチが可能に | FORCAS(フォーカス)
ソニーマーケティング株式会社
ソニーマーケティング会社は、ソニー製品のマーケティングと販売を担っている会社です。
近年法人向けに売っていたPC「VAIO」に加え、テレビの「ブラビア」の販売を強化することになったものの、社内にあったリストはPC用のみで、営業活動に活かせないという問題がありました。古くなったデータの整理のためにFORCASを導入し、CRMと連携させて顧客の分析を行い、リストの精度を向上させました。商品の用途ごとにターゲット企業リストを作成したことで、アウトバウンド営業の成果が上がり、併用したMAツールの効果もあって案件創出数は2倍になりました。
出典:ABM(アカウントベースドマーケティング)とは?導入成功事例と共に徹底解説 – セールスインテリジェンス研究所
ABMで活用できるツール
ABMでは、企業選定や提案をスムーズに行うためにも、情報を管理・分析することができるSFAやCRMシステムを活用すると効果的です。場合によってはSFA/CRMとMAツールを連携させて使うことも有効な手立てでしょう。以下に各システム・ツールの役割を簡単に解説します。
MAツール
MA(マーケティングオートメーション)ツールは、マーケティング活動を支援するためのものです。見込み客の顧客管理機能やメール配信機能などを使うことができます。ABMにおいては、商談を進める際に顧客にパーソナライズ化したコンテンツを適切に届ける際に役立ちます。SFAやCRMの情報と連携することで、より効果的に使用することができます。
参照:マーケティングオートメーション(MA)とは?機能や選び方、おすすめツールまで紹介
SFAシステム
SFA(Sales Force Automation)は、営業活動を支援するためのシステムで、顧客や商談情報、営業の行動情報を一元管理することで営業活動の可視化、効率化をサポートします。ABMにおいては、営業の活動情報などをターゲットとなる企業の選定やアプローチ方法の決定の際に活用することができます。
参照:SFAとは?基礎知識からCRMやMAとの違いや導入ポイントをわかりやすく解説
CRMシステム
CRM(Customer Relationship Management)とは、顧客のエンゲージメントを向上させるために顧客情報や購買情報、顧客の行動情報などを一元管理・活用するシステムです。ABMにおいては、CRMを活用することで、顧客に対して適切なフォローアップや新規取引先の開拓をすることが可能です。
参照:CRMとは?導入メリットや機能、選び方やおすすめツールまで解説
名刺管理ツール
ABMを行うためには、ターゲット企業の情報をいかに厚く取得できるかは重要なポイントです。SansanやuSonarなどの名刺管理ツールを利用することで、会社で保有している名刺情報を一元管理でき、CRMなどに連携することで名刺情報を有効に活用することができます。
また、名刺管理ツールのなかには「帝国データバンク」をはじめとした企業情報データベースと連携しているツールもあり、そういったデータをCRMやMAに連携させることで、よりターゲット企業の情報を広く深く取得することができ、ABMに役立てることができます。
まとめ
本記事では、ABMのメリット・デメリットや導入する際の具体的な手順、実際の使用例について紹介してきましたがいかがでしょうか。
ABMは予算や人的資本をターゲット企業に絞ってアプローチするため、営業やマーケティング活動をより効率化することができます。情報をうまく活用することで労力を大幅に削減することも可能です。
一方で、社内の環境が整っていない、コストに対して成果が出るのか、など導入に関して多くの不安があると思います。
弊社では本記事でご紹介したABMに精通した経験豊富なコンサルタントが設計から実装・運用まで支援しております。SalesforceをはじめとしたABM推進ツールの導入や活用についてお困り事ございましたらこちらのお問い合わせフォームよりお気軽にご相談ください。
執筆者 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
大学卒業後、株式会社TBI JAPANに入社。株式会社Paykeに取締役として出向し訪日旅行者向けモバイルアプリ及び製造小売り向けSaaSプロダクトの立ち上げを行う。
アクセンチュア株式会社では大手メディア・総合人材企業のセールス・マーケティング領域の戦略策定や業務改革、SFA・MAツール等の導入及び活用支援業務に従事。
株式会社Paykeに再入社し約10億円の資金調達を行いビジネスサイドを管掌した後、Strh株式会社を設立し代表取締役に就任。
▼保有資格
Salesforce認定アドミニストレーター
Salesforce認定Pardotスペシャリスト
Salesforce認定Pardotコンサルタント
Salesforce認定Sales Cloudコンサルタント