カスタマーサクセスにおけるオンボーディングとその重要性
この記事でわかること
- カスタマーサクセスとは何か?取り組みフェーズについて
- カスタマーサクセスにおけるオンボーディングの重要性
- オンボーディングのステップとポイント
- オンボーディングの取り組み事例
執筆者 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
カスタマーサクセスの取り組みにおいて、顧客がたどるフェーズや、顧客のセグメントに合わせて施策を行っていくことが非常に重要となります。
オンボーディングとは、導入初期段階のフェーズで、顧客がサービスを利用することで解決したい目標に対するアクションを設定したり、顧客がサービスを使いこなせるようになるまでを支援したりする取り組みのことを指しています。
なぜカスタマーサクセスに取り組む多くの企業がオンボーディングに力を入れているのでしょうか。
本記事ではカスタマーサクセスにおけるオンボーディングの概念と、その重要性について深堀りする形でご紹介いたします。
これからオンボーディングに注力していきたいと考えられている担当者様、よりオンボーディングを促進していきたい担当者様は是非最後までお読みください。
1.カスタマーサクセスのオンボーディングとは何か
オンボーディングと聞くとどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
オンボーディングとはもともと、目的地までの船や飛行機に乗っている状態を表す「on-board」という意味ですが、その意味が派生して、ビジネスの世界では主に以下の2種類を表す言葉としてオンボーディングという用語が使用されています。
1つ目:人事用語としてのオンボーディング。新入社員を早期に戦力化するための施策やプロセス。
2つ目:SaaSのカスタマーサクセスにおける、サービス導入初期段階の顧客向けの取り組み。
今回ご説明するのは2つ目のオンボーディングについてとなります。
カスタマーサクセスにおけるオンボーディングとは、プロダクトやサービスの導入段階で、カスタマーサクセスの担当者が顧客に対してプロダクトの仕様や利用価値について理解を深めてもらい、顧客が自走できるように支援するプロセスを指します。顧客が初期段階からポジティブなユーザー体験を得ることができれば、顧客満足度や定着率の向上、チャーン防止、そして最終的にはビジネスの成長に繋がります。
カスタマーサクセスとは、以下に記載の別記事でも解説しているように、BtoB SaaSやサブスクリプションモデルにおいて最重要事項である「いかに長く継続して利用し続けてもらえるか」という部分に重きを置いた取り組み全般を指しますが、オンボーディングはその取り組みの中でも最も重要な役割を担っていると言えるでしょう。
参照:カスタマーサクセスとは?役割や具体的な施策について解説
カスタマーサクセスの取り組みの中で、顧客がたどるフェーズは主に以下の3つとなります。
オンボーディング
カスタマーサクセスの担当者が、契約を結んだ顧客と初めて接点を持つフェーズです。
顧客と一緒に課題解決のためのゴール設定をし、サービスを使いこなせるようになるまで支援を行い、利用価値について深い理解を持ってもらうことが主な目的です。
アダプション
サービスの使い方を習得した顧客に対して、業務で本格的に活用してもらうことで利用を定着化させていくフェーズです。オンボーディングが終了しても、活用事例の紹介や定期的なアプローチにより、更なる顧客満足度向上を目指します。
エクスパンション
アップセル、クロスセル、パッケージセルなどによって顧客のサービスに活用を拡大するフェーズです。
エクスパンションの実現には、オンボーディングの段階でエクスパンションを見据えた目標設定をしておくことが重要です。
上記から分かるように、オンボーディングはカスタマーサクセスの取り組みにおいて一番最初のフェーズとなり、全てのフェーズに影響を与えるため、良いスタートを切ることができるかどうかがとても重要な鍵となります。
2.カスタマーサクセスにおけるオンボーディングの重要性
オンボーディングがどのような取り組みを指すかについて説明してきましたが、オンボーディングがなぜ最終的にビジネスの成功へと繋がるのか、その理由を具体的に紐解いていきましょう。
オンボーディング後の全ての顧客フェーズに直結している
顧客がサービスを利用する目的や利用価値が明確になっていて、サービスを使いこなせることができるようになっている状態ができていると、より活用度を促進させるための施策やアップセルの提案がしやすくなります。オンボーディング時には、顧客に入り込み密に連携する機会が多いため、サービスを利用する全てのステークホルダーを把握し、それらの方との関係性を深められる利点もあります。
利用の継続を促すことで、チャーン(解約)を防止できる
先にも述べた通り、カスタマーサクセスの取り組みで最も重要なのは、いかに長く利用し続けてもらえるかということです。
顧客が解決したい課題やサービスに対する不満などを聞き出し、適切な提案を定期的に行うことで顧客と長期的な関係を築いていくことができます。顧客をサポートしきれておらず、契約更新間近になってやっと本心を聞き出すことができたとしても、一度離れた顧客の心を短期間で取り戻すのは難しいため、オンボーディングがそのような状況を回避できる最初の大きなチャンスとなります。
アップセル・クロスセルの機会を創出し、LTVの最大化に繋げられる
顧客がより長くサービスを利用し続けてもらうことに加えて、顧客単価を上げ、LTV(顧客生涯価値)を最大化できればよりビジネスの成長へと繋がります。オンボーディング期間中にアップセルやクロスセルを行うことももちろん可能ではありますが、どちらかと言えば、将来的にアップセルやクロスセルのチャンスに繋がるような目標設定をオンボーディング期間中に行い、顧客と早期のうちから良い関係を築くよう心がけましょう。
参照:LTV(ライフタイムバリュー)とは?顧客生涯価値の意味から向上施策まで解説
ロイヤルカスタマーからのリファラルを得られる
ロイヤルカスタマーの定義はサービスや企業によって異なりますが、サービスへの理解度・満足度が高く、長期に渡りサービスを利用し続けている顧客は、周囲の知り合いにサービスを広め、新規顧客をもたらしてくれる可能性があります。リファラル経由で契約に至った顧客も同様にロイヤリティが高くなる傾向があるため、全ての顧客フェーズに影響を及ぼすオンボーディングは、このような観点からも非常に重要です。
3.オンボーディングのステップとポイント
では実際に、オンボーディングをどのように進めていけば良いのでしょうか。オンボーディングにおける主なステップを見ていきましょう。
①セールスから顧客情報を引き継ぎ、導入から活用までのイメージを描く
こちらは顧客と行うステップというよりも、顧客と接する前に社内で整理しておくべきものとなります。セールス担当者は、顧客がサービスを契約するための意思決定の材料として、顧客が置かれている状況や課題・実現したいことをヒアリングしています。課題解決や目標実現から逆算し、オンボーディング・アダプション・エクスパンションまでの道のりと、各フェーズで必要となるアクションについて明確にしておく必要があります。
②オンボーディングのゴールを設定する
オンボーディングの完了・成功の定義が曖昧だと、顧客の支援方法にムラが出て、なかなかアダプションフェーズへと進むことができず、結果的に顧客満足度の低下を導く可能性があります。導入から活用までのイメージが描けたら、ユーザーがサービスを使いこなせている状態・ユーザーがサービスの利用価値を理解できている状態をどのように判断するかを定義します。この定義(ゴール)として、達成可能で尚且つ具体的な数値を設定するようにしましょう。
③適切なアプローチを見極める
カスタマーサクセスでは顧客層を「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」の3つにセグメンテーションし、各層に合わせた最適な支援を行うことが重要となります。各セグメントごとにどのような手段でオンボーディングを行うべきかを検討しましょう。
ハイタッチ
LTVが最も高いと想定されている、大口顧客と呼ばれる層に対してのアプローチとなるため、打ち合わせなどの直接のコミュニケーションを通して個別にゴール設定を行い、定期的な進捗確認やサービス利用のサポートが必要となります。ゴール設定を顧客とインタラクティブに行うことで、顧客からもゴール達成へのコミットメントを得ることができるため、非常に効果的です。
ロータッチ
ハイタッチを行うべき顧客よりもLTVが低い中間層へのアプローチとなるため、顧客とのコミュニケーションは主に、メールやSNSなどを利用してオンラインで行います。オンラインでの個別サポートだけでなく、一度に複数の顧客を対象にできるセミナー等も交えて行うと効率化も図れます。
テックタッチ
LTVが低く、顧客数が多い層となるため、より費用や工数を抑えるために、自動化されたシステムを活用して支援を行います。メルマガで利用方法などの情報を送ったり、サービス上にチュートリアルを設置したりすることで人の手を介さずにサポートを行います。
④PDCAを回し改善していく
ゴールの達成率を定期的に振り返り、見直しを行いましょう。このPDCAサイクルを回すことでオンボーディング活動はより洗練され、スケーラビリティの向上にも繋がります。
4.オンボーディングの各社取り組み事例
提供するサービスの特徴や会社規模に応じてオンボーディングを工夫し、成功を収めている会社の具体的な事例を見ていきましょう。ここではYappli, HubSpotの例を紹介いたします。
Yappli
Yappli(ヤプリ)は、クラウド型のアプリ開発・運営プラットフォームを提供しています。
お客様からヒアリングしたサービスに対する要望や解約に至った理由などをオンボーディングの内容に活かしています。サービスの特性上、Yappliを利用してアプリを開発した後にユーザーにいかにそのアプリをダウンロードしてもらえるかが重要となるため、オンボーディングはYappliの利用促進だけでなく、ダウンロードに至るまでの施策をコンサルティングするような支援も行っています。そのことが1%前後という低い解約率に繋がっています。お客様からフィードバックを得ることに苦戦している企業も多い中で、複数のパターンやタイミングでアンケートを取ることでリアルな声を吸い上げることに成功しているのも、Yappliの特徴と言えるでしょう。
HubSpot
HubSpotは、マーケティング、営業、カスタマーサービス、ウェブコンテンツ管理や企業のオペレーション部門を支援するCRMプラットフォームを提供しています。
HubSpotは、既存顧客を担当するチームを大きく二つに分けており、3ヶ月のオンボーディング期間を担当する導入支援チームと、その後の定着フェーズを担当するカスタマーサクセスチームが存在しています。オンボーディングでは、目標達成のために必要なステップをSMARTの法則に従って具体的に決めていきます。
S(Specitic:具体的である)
M(Mesuarable:測定可能である)
A(Achievable:達成可能である)
R(Relevant:組織の目的と関連性がある)
T(Time bound:期限が明確である)
また、HubSpotは導入したばかりの顧客でも無料ですぐに利用できるHubSpotアカデミーというオンラインコースを提供しています。短期集中型の実践的なコースから、総合的な認定資格取得を目的としたコースに至るまで、豊富なコンテンツがありますが、その中の基本設定ガイドに従うことで3ヶ月で自走できる状態になる設計となっています。また、HubSpotの利用方法だけではなく、マーケティングやセールスに関連する幅広い分野を学ぶことができるため、コースが進むにつれてサービス活用のイメージが膨らみ、アップセルに繋がった事例もあります。
5.まとめ
ここまでご紹介した通り、カスタマーサクセスの取り組みにおいてオンボーディングは、顧客満足度や定着率の向上、チャーン防止に直結する大切なプロセスであることがご理解いただけたかと思います。また、オンボーディングと一言に言っても、その内容は企業やサービスによって最適化することが重要となりますので、PDCAを回しながら、最適なオンボーディングを設計していきましょう。まずは、是非本記事で紹介した内容を参考に、顧客向けのオンボーディングの導入、促進を進めていただければ幸いです。こちらに関連する内容でお困りのことがございましたら、お問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。
執筆者 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
大学卒業後、株式会社TBI JAPANに入社。株式会社Paykeに取締役として出向し訪日旅行者向けモバイルアプリ及び製造小売り向けSaaSプロダクトの立ち上げを行う。
アクセンチュア株式会社では大手メディア・総合人材企業のセールス・マーケティング領域の戦略策定や業務改革、SFA・MAツール等の導入及び活用支援業務に従事。
株式会社Paykeに再入社し約10億円の資金調達を行いビジネスサイドを管掌した後、Strh株式会社を設立し代表取締役に就任。
▼保有資格
Salesforce認定アドミニストレーター
Salesforce認定Pardotスペシャリスト
Salesforce認定Pardotコンサルタント
Salesforce認定Sales Cloudコンサルタント