BtoB広告の始め方と失敗しない運用方法 | アナグラムの支援事例から学ぶBtoB広告のポイント
この記事でわかること
- テストマーケティングにおける成果指標とゴールの考え方
- BtoB広告における検索広告の考え方
- BtoB広告への本格運用時の広告予算と体制の考え方
- 成果の出る企業と出ない企業の特徴
- 代理店選定のポイント
執筆者 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
BtoBマーケティングやSalesforce活用に取り組む人や企業にスポットを当て、BtoBマーケティングやSalesforce活用のノウハウやナレッジをインタビューする企画「となりのBtoBマーケティング」。
前編(”カテゴリキーワードの検索数×ターゲット数”で施策の優先度が決まる)ではBtoB運用型広告のトレンドやテストマーケティングを行う際に準備すべき内容や、媒体の考え方について伺いました。
後編も引き続きBtoB運用型広告の専門家でもあるアナグラム株式会社の二平燎平さんに、テストマーケティングにて投下すべき広告予算や本格運用開始時に検討すべき媒体選定や予算、体制の考え方、代理店選定のポイントなどを具体的にお伺いします。
目次
予算30万円を消化して反応が薄ければ根本から”何かがおかしい”
杉山:これもよくある質問なのですが、テストマーケティング時に広告運用にかける予算はどの程度確保しておけばよいでしょうか。
二平様:テストマーケティング時は10万~30万円程度の予算があれば十分かと考えています。先ほどのSmartHRさんも1-2万で反応があったり、弊社の支援事例では数千円から数万円ぐらいで反応があることも多いです。正直30万円を消化して反応がなかったら、「何かがおかしい」と考えた方がよいかと思います。
杉山:テストマーケティングにおいて、広告費を30万円かけてコンバージョンが出なければそもそもサービスの「ターゲット設定」や「プロダクト設計」などサービス根本に問題があるかもしれないということですね。
では、テストマーケティングを経て本格的に予算をかけて広告運用に取り組むと判断するために、テストマーケティングにおいて指標を置いて評価をしないといけないと思いますが、どのような定量・定性指標を置くべきだとお考えでしょうか。
二平様:一定数コンバージョンが取れてくると、どの程度の*CPAでコンバージョンが取れるかも分かります。そうすると*LTVやどの程度の*CACで獲得できるのかも算出できてくるので、その辺りの指標を確認しながら広告コストに対して適正なリターンが得られそうかというのが一つの評価指標になるかと思います。
ただ現実としては、テストマーケティング時や運用立ち上げ初期はそういった指標がうまく取れないケースが大いにあるかと考えられます。したがってある程度は「コンスタントに反応・コンバージョンが見えてきたぞ」という、定性的な感覚も含めて判断する形になることも大いにあると思います。
あとは実際にそのサービスが受注まで繋がっているのかという視点は重要ですね。
*CPA=Cost per Acquisitionの略。主に広告運用において利用される用語で「顧客獲得コスト・単価」と呼ばれる。広告経由の訪問者に対して1回の成果(コンバージョン)を獲得するのにかかる費用のことを指す
*LTV=Life Time Valueの略。1人の顧客が生涯のうちで企業に対してもたらす利益のことを指す。詳細解説記事はこちら。
*CAC=Custmoer Acquisition Costの略。CPAと同様に「顧客獲得コスト・単価」と呼ばれるが、CPAと異なり、CACは人件費や代理店手数料・外注費なども含む「1人の顧客を獲得するのに費やした全ての費用」を指す。
その広告は”商談”や”受注”にどの程度貢献しているか?
杉山:BtoBは「広告コンバージョン=売上」ではないケースがほとんどなので、広告コンバージョンの先の「商談」や「受注」に、どの程度繋がっているのかまで抑えるのが重要ですよね。
意外と「リードが低いCPAで取れてるからいいよね」という判断で、広告コンバージョン以降の管理・評価が甘くなるケースがあり、それは本質的ではないと思います。
ただ、そうすると営業指標までモニタリングできるように計測環境を整備しないといけないなど、別の課題も出てくるのでテストマーケティング段階でどこまでやるのかという話もありますが。
二平様:本来であれば受注まで見た方がいいですよね。ただ、どうしても商談にはリードタイムがあるので、そこをどう考えるかは企業次第ではあるかと思います。前提として、ある程度営業だけで売ることができていれば、きちんとリードを獲得できれば売れるという状態だと思うので、そのような状態であればマーケティング側でどの程度リードが獲得できるのかが分かれば、広告予算は少し踏んでもよいかなとは個人的な感覚としてはあります。もちろんフェーズやすでに売れているサービスなのかにもよりますが。
例えば大企業であれば恐らく次のステップや来期に向けて予算を確保しにいくといった形になると思うので、一旦リードはこの程度獲得できますと言えれば予算取りで上申しやすかったりすることもありますね。一方でスタートアップだと来期に向けた予算取りという考えではなく、投資家があっての話だと思うので結構シビアに見られるところがあるのかなという印象もあります。
あとはスピード感ですね。競合他社がどんどん出てくるので早くこちらもアクセル踏まないといけないといったケースもあります。様々な要素があるので判断が難しいポイントの1つですが、どの程度広告予算をかければどの程度コンバージョンが取れるのかが見極められたら1つのゴールになるかなと思います。
杉山:ありがとうございます。それではテストマーケティング時における運用体制はどのように考えればよいでしょうか。
二平様:クイックに動いて行ける体制が望ましいので自社運用でできるのであればベストですかね。社内に人材がいなければフリーランスや副業人材の活用なども検討してみてもいいかと思います。
早い段階で検索広告の”天井を叩く”
杉山:テストマーケティングを経て、本格的に予算をかけてアクセルを踏むとなった際に再設計する内容やプロセスはありますか。
二平様:冒頭にお話したキーワードの検索数とターゲット数で優先度は変わるというのは前提にありますが、コンバージョンポイントの観点では最初の方はなるべくシンプルにした方が良いと考えています。
例えばインサイドセールスの体制が整ってない状態で、ホワイトペーパーとかセミナーなどの施策を広げると、どうしてもフォロー含め全体のリソースが薄くなってしまいます。したがって基本的には商談に近いプロセス、検討確度が高い層に対して「サービス資料」や「トライアル」「問い合わせ」を最大化していく形になると思います。
出典:アナグラム社提供資料より引用
そうすると、検索広告から取り組むことが多くなるかなと考えています。検索広告は検索ボリュームによって配信量や成果が制限されてくるので、可能であればまずその検索広告の”成果の天井を叩く”のがよいかと思います。例えば「CRM」というキーワードで出稿するのであれば、検索数や月間の配信ボリュームを把握した上で、広告費を〇円かけるとCPAがいくらで、これくらいの件数が獲得できるといったことを把握して、まずGoogle広告やYahoo!広告、Microsoft広告などの検索広告を攻略する形になるかと思います。
参考:リスティング広告とは?メリットや始め方、成功のポイントまで簡単に解説
私も様々なクライアントを支援していると、結局リード獲得のCPAはMetaが安いがその後の商談化率とか受注率まで見たら結果、検索広告の方がパフォーマンスが良かったというケースはかなり多いです。また、先ほどのお話でCRMと連携したら最終成果への貢献まで確認できるようになりますが、きちんとそこまで整備できていない企業が多いのが実情です。
杉山:ありがとうございます。商材タイプによって優先度は変わるものの、検索数はある程度少なくても検索広告は実施すべきということですね。
二平様:そうですね、検索広告は検索数が少なくても早い段階で攻略をしていく必要があると考えています。なので検索広告をしっかり取り組む。そしてシンプルなコンバージョンの設計にするというのが最初のポイントですね。ある程度検索広告が整ってきたら、同時並行でもいいんですがMetaや他媒体にも展開していくという流れになるかと思います。
準顕在層や潜在層へのアプローチは体制構築とともに進める
杉山:先ほどお見せいただいた顧客層で言うと、顕在層への施策を優先的に取組んだ上で、準顕在層や潜在層に対するアプローチで母数を広げていくということですね。
二平様:仰る通りですね。準顕在層や潜在層に拡げていくとすると、インサイドセールスを整備したり、マーケティングオートメーションを使ってスコアリングしてインサイドセールスの無駄打ちを減らすことであったり、一定の体制構築が必要になってきます。
運用初期フェーズだとそこまでリソースがかけられない企業も多いと思うので、まず初期は顕在層にしっかりアプローチできる検索広告をやりきる形になると思います。
出典:アナグラム社提供資料より引用
杉山:初期であればあるほどいきなり手を広げて予算やリソースを分散させるより、ある程度検索広告から絞るなら絞ってちゃんと攻略した上で拡げていくという考え方が重要ということですね。
二平様:そうですね、結局商談や受注に繋がらないと意味がないので。Meta広告などはホワイトペーパーをはじめとして、コンバージョンハードルを下げれば簡単にCPAは下げられます。ただし、それが商談や受注に繋がるかというとホワイトペーパーやセミナー企画の内容、その後の営業体制であったり複雑に様々な要素が絡んでいるので、よりシンプルに結果出すんだったらまず検索広告を攻略するという考え方もあると思います。
検索広告である程度母数を確保できてもっと裾野を広げていく段階になったり、あるいは検索数がそもそも少なくMeta広告などを活用した方が良い商材であれば、セミナーやホワイトペーパー、コンバージョンリンクを設計して、MetaやX、Linkdinでまずはリストを獲得する。そして集めたリストに対してセミナー誘致を行って、インサイドセールスと連携して商談に繋げるといった流れになるのではないかと思います。
出典:アナグラム社提供資料より引用
カテゴリキーワードの検索数が少ない商材におけるMeta広告の優位性
杉山:なるほど、ありがとうございます。改めてになりますが、カテゴリキーワードの検索数が少ない商材を扱われている企業も検索広告に取組むべきとお話いただきました。その際にどういった考え方でキーワードを選定すべきでしょうか。
二平様:最低限カテゴリキーワードは対策しておいた方がよいかと思います。あとは指名検索は最低限やっておいた方がよいですが、本当に最低限でよいと思います。
やはり冒頭前述の通り検索がされないサービスについては、MetaやXなど検索広告以外の媒体が主戦場にどうしてもなってしまうかと考えています。
杉山:まだまだMetaはBtoB広告の媒体としては未だに強いんですね。
二平様:
出典:アナグラム社提供資料より引用
ターゲットが多くて検索されない商材はMetaではある程度コンバージョンが取れるといったこともあります。
更にコンバージョンハードルが比較的低い「セミナー参加」をコンバージョンにした広告であれば、 Metaでもノンターゲティングでも意外とコンバージョンが獲得できたりしますし、コンバージョンが取れていくなかで最適化が行われコンバージョンが取れそうな人に対して配信がさらに最適化されていきます。
また、コンバージョン数が一定数あるというのが前提ですが、Metaは広告はターゲティングが同じでもクリエイティブによって反応するユーザーが異なるため、最適化により配信されるユーザーも費用対効果も大きく変わることがよくあります。
本格運用開始時の広告予算と体制の考え方
杉山:ありがとうございます。媒体特性や選定についてよく理解できました。少し観点が変わり、本格的に広告運用を行う際の予算の考え方についてお伺いできればと思いますが、投資する予算上限が決まっておらず「予算をどの程度かけるべきか」と悩まれる企業も多いと多いかと思います。予算上限については企業規模や商材、フェーズによっても異なると思いますが、ミニマム用意しておくべき予算はどの程度でしょうか?
二平様:最初からいきなり数百万かけて取り組みを始めるよりも、テストマーケティングの延長で少額から始めて、費用対効果が合ってくるのであれば徐々に増額していくという形が一番安全かと思います。具体的には例えば検索広告を行う場合は、検索数に寄りますが50~100万円程度はミニマムで必要になってくるかと思います。
体制としてはテストマーケティング時同様に、費用対効果が合ってきて予算を増額してもよいと判断したタイミングで代理店に依頼するような流れがよいかと思います。
杉山:フリーランスや副業の方だと媒体が増えた際にどうしても手が回らなかったり、各個人で得意不得意な媒体があったりしますよね。
二平様:そうですね。あとは多くの場合代理店の方が事例が豊富なので、複数の媒体を運用する際には代理店に依頼するのもひとつです。
成果の出る企業と出ない企業の特徴
杉山:ありがとうございます。少し抽象的な質問で恐縮ですが、これまでの御社のご支援のなかで成果がきちんと出る企業と、そうでない企業に何か特徴はありますか?
二平様:一緒に仕事しやすく成果が出る企業の特徴としては、コミュニケーションを密にいただけるという点です。たとえば、リード獲得後のプロセスや対応状況をリアルタイムに共有していただいたり、スプレットシートで獲得したリードの商談化データなどを逐一更新いただいたり、社内の体制変更含めて何か変化があればその情報を素早く共有いただけたり。
逆に成果が出にくい企業でいうと、必要以上に保守的であることが挙げられます。過去に失敗した経験を理由に、特定の施策を最初から避ける傾向がありますが、これは非常にもったいないと感じます。
特に運用型広告の各媒体はアップデートが早いので、1年前のプロダクトと現在のプロダクトは全く違います。例えば、Google広告のデマンドジェネレーションキャンペーンという機能があります。これは2年前であれば使いにくい機能でしたが、現在はターゲティング機能が大きくアップデートされとても使いやすく成果に繋がる機能になっていたりします。
過去実施した際に何がうまくいかなかったのか。機能なのかターゲティングなのかクリエイティブなのか、その他の要素なのかその辺りを整理せぬままやらないという判断は機会損失に繋がると考えていてもったいないなと。
杉山:媒体側もアップデートしているし、広告主側のサービスもアップデートしているので、過去なぜその施策を止める判断をしたのかを紐解いて、きちんと今の現状と適合するか否かで判断することが大事だということですね。
二平様:本当にWebマーケティングのアップデートやトレンドは早いので、ある程度チャレンジしていくという姿勢は重要だと思います。例えば全体予算の5パーセントぐらいをそういった新しい機能や媒体に投下するといった取り組みを行っている企業もあって、その企業は新しい情報を手に入れるということは出来ているので、そこでうまくいった施策を大きな予算をかけて展開していたりします。
あとはノウハウを社内に貯めようとする意識も重要だと思っています。私たちが長期間支援させてもらってる、あるクライアントは、成果の出た広告施策の成功の要因を熱心に尋ね、その学びを社内で共有して応用しているそうです。このようなアプローチを取る企業は、成果を出しやすいのではないでしょうか。
代理店選定における担当者見極めの重要性
杉山:代理店を選定する際に広告主が見ておくべきポイントや、提案を受ける際にこういった質問はしておいた方がよいといったことはありますでしょうか。
二平様:私は広告代理店の業界は美容師さんの業界と一緒かなと思っていて。めちゃくちゃ有名で評判の良い美容室があっても、自分に合う担当が居るかというと少し違うと思います。同じように代理店の担当者によって自社に合う・合わないは一定数あると思っています。大手の代理店だと初動でエースが出てきて後から別の人が担当になるというケースもあるので、実際に担当する人はよく見た方がよいです。
正直担当者によって成果は本当に変わる業界だと思いますので、それが代理店としてどこまで標準化されているのかや、どういう体制で取り組みを行うのかはポイントになると思います。
杉山:担当者によって差があるっていうのはすごく納得感がありますが、初めて広告運用を行う企業や広告運用の経験が少ない企業にとっては、「どういった人が出来る人で、出来ない人なのか」の判断も難しいのかなと思います。 その点について、担当者に確認しておいた方がよいことや、ちゃんと見ておいた方がいい点はありますか?
二平様:提案などを通して、業界や商材に対する理解度などを把握したいですね。正しく理解をしていないと精度の高い広告運用は難しいです。他にも人と人でやり取りをしますのでコミュニケーションが取りやすいとか、信頼ができるとかパーソナルな部分も気にしておくのがいいでしょう。
あと基本的なことですが、同じチームとしてやっていくなかでレスポンスのスピードが遅いと困りますよね。
杉山:レスポンススピードもそうですし、質問に対してきちんと背景を汲み取って芯を食った回答をしてくるのかなどの、コミュニケーションの質の面も担当の方によっても大きく違いますよね。
二平さん、ありがとうございます。
ストラ代表 杉山のインタビュー後記
BtoB広告とひと口に言っても様々な媒体があり、自社の商材特性や媒体利用属性を理解し上手に活用すると、ビジネスを大きく前進させることができる有効なマーケティングチャネルになります。
ただし”何となく”媒体を選び、運用を始めることで、成果に対して遠回りしている企業も多いのが実情ではないでしょうか。
これからBtoB広告の運用を始められる企業や運用初期の企業にとっては、二平さんにお話しいただいたテストマーケティングにおける考え方や、媒体・ランディングページ・予算・体制・代理店選定などの考え方を理解した上で取り組むことで、手戻りを最小化しながら成果に繋がる一助になるかと考えています。
また、BtoB広告の運用に取り組む際は、広告成果がどれだけ最終成果である”売上”やその手前になる”商談”に貢献しているのか。マーケティング部門としても当然ここは強く意識する必要があり、これらの指標は営業と協力しなければ把握・改善することが困難ですので、営業部門との密なコミュニケーションも重要になります。
BtoB広告運用の成功に択一的な正解はありませんが、遠回りを避けるために押さえておくべきポイントは確かに存在します。今回の内容の1つのエッセンスでもBtoB広告の運用に悩まれている皆さまの課題解決に繋がれば幸いです。
二平さんの著書「BtoBマーケティング“打ち手”大全 広告運用でリード獲得に差をつける 最強の戦略 80」が2024年3月22日より発売されるので、こちらも是非チェックしてみてください。
ストラではマーケティング戦略策定からBtoB広告含めた施策実行まで、end to endでマーケティング支援を行っております。マーケティング活動で課題や悩みを感じている方は、まずはお気軽にご相談ください。
インタビュワー 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
大学卒業後、株式会社TBI JAPANに入社。株式会社Paykeに取締役として出向し訪日旅行者向けモバイルアプリ及び製造小売り向けSaaSプロダクトの立ち上げを行う。
アクセンチュア株式会社では大手メディア・総合人材企業のセールス・マーケティング領域の戦略策定や業務改革、SFA・MAツール等の導入及び活用支援業務に従事。
株式会社Paykeに再入社し約10億円の資金調達を行いビジネスサイドを管掌した後、Strh株式会社を設立し代表取締役に就任。
▼保有資格
Salesforce認定アドミニストレーター
Salesforce認定Pardotスペシャリスト
Salesforce認定Pardotコンサルタント
Salesforce認定Sales Cloudコンサルタント