カスタマーサクセスとは?役割や具体的な施策について解説
この記事でわかること
- カスタマーサクセスとは?目的やメリット
- カスタマーサクセスのアプローチ
- カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い
- カスタマーサクセスに設定すべきKPIの種類
- カスタマーサクセスの導入手順や成功事例
執筆者 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
「カスタマーサクセス」という言葉を最近よく耳にする機会が増え、その重要性は何となく理解しているものの「カスタマーサクセスって具体的に何をすればいいの?」「カスタマーサクセスはどういう手順で進めればいいの?」という疑問やお悩みをお持ちの方は多いのではないでしょうか。
カスタマーサクセスとは、単に顧客に製品やサービスを提供するだけではなく、顧客がその製品やサービスを活用し、成功を収めるためのサポートを提供する活動のことを指します。カスタマーサクセスが注目され始めたのは、BtoB SaaSやサブスクリプションモデルが市場として大きく成長し、そのなかでSalesforce社が提唱したフレームワークである「THE MODEL」のなかでカスタマーサクセスの重要性が説かれた2010年代以降に起因します。
BtoB SaaSやサブスクリプションモデルにおいては、プロダクトやサービスを提供(売る)だけではなく、「いかに長く継続して利用し続けてもらえるか」が最重要事項になります。カスタマーサクセスによって、プロダクトやサービスの利用を通して顧客との長期的な関係を築き、ビジネスの成功を促進することが、解約率の低減やアップセル・クロスセルの機会創出、LTVの向上に繋がります。
しかし、顧客と一口に言っても様々なセグメントや状況があり、それらに応じて適切なコミュニケーションを行う必要があることを理解しなければ、適切なカスタマーサクセスを行うことができません。
本記事ではカスタマーサクセスについて改めて解説するとともに、注意点や具体的な施策を紹介しています。これからカスタマーサクセスに注力したいと考えられている担当者様、よりカスタマーサクセスを促進していきたい担当者様は是非最後までお読みください。
参照:LTV(ライフタイムバリュー)とは?顧客生涯価値の意味から向上施策まで解説
目次
1.カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは「顧客のビジネス成果を最大化することを目的とした、顧客との継続的な関係を構築するプロセス」のことです。
具体的には、顧客がプロダクトやサービスを最大限に活用できるよう、顧客のニーズを理解し、そのニーズに合ったアドバイスやサポートを提供します。また、顧客のビジネス成果を測定し、改善策を提案することも重要な役割の一つです。
カスタマーサクセスの目的は、単にプロダクトやサービスの提供だけではありません。顧客との関係性を築くことで、長期的な顧客ロイヤルティを獲得し、競合他社との差別化を図ることも重要な役割の一つです。また、顧客からのフィードバックを収集することで、製品やサービスの改善や新しいプロダクトの開発にも役立ちます。
こうした一連の活動を通して、プロダクトやサービスを継続利用してもらい、LTVを最大化させることが、カスタマーサクセスの一つの役割と言えます。
2.カスタマーサクセスのアプローチ
ではカスタマーサクセスは具体的にどのようなアプローチで進めていけばよいのでしょうか。
カスタマーサクセスでは基本的に顧客層を「ハイタッチ」「ロータッチ」「テックタッチ」の3つにセグメンテーションし、各層に合わせた最適な支援を通して顧客のビジネス成長の促進を行います。
1.ハイタッチ
ハイタッチは、最も密接な関係を築くアプローチです。カスタマーサクセスの担当者が定期的に顧客と対面し、直接コミュニケーションを取ります。このアプローチでは、顧客のニーズに対応し、問題解決やアドバイスを提供することができます。また、顧客との関係性を強化することができるため、顧客のロイヤルティ向上にもつながります。
2.ロータッチ
ロータッチは、顧客とのコミュニケーションを主にオンラインで行うアプローチです。メールやチャット、SNSなどを利用して、顧客とのコミュニケーションを取ります。ハイタッチに比べてコストが低く、スケールメリットがあるため、大量の顧客と接触することができます。しかし、直接対面することができないため、顧客のニーズに対応することが難しい場合があります。
3.テックタッチ
テックタッチは、自動化されたシステムを利用して顧客とのコミュニケーションを行うアプローチです。例えば、自動返信メールや自動化された問い合わせフォームなどがあります。このアプローチは、大量の顧客と接触することができ、コストも低いため、スケールメリットがあります。しかし、顧客に対応することが難しく、顧客のニーズに応えることができない場合があります。
以上のように、ハイタッチ、ロータッチ、テックタッチは、それぞれ特徴があります。企業は、自社のビジネスニーズや顧客ニーズに合わせて、適切なアプローチを選択することが重要です。
3.カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違い
カスタマーサクセスとよく混同されるのが「カスタマーサポート」。目的や役割からこれらの違いを見ていきましょう。
つまり、カスタマーサポートは、問題解決にフォーカスしたリアクティブなサポートであるのに対し、カスタマーサクセスは、ビジネス成果を最大化するためのプロアクティブなサポートであると言えます。
4.カスタマーサクセスのKPI
カスタマーサクセスを進める上でどのようなKPIを設定すればよいのでしょうか。顧客のビジネスの成功を促進することがカスタマーサクセスであり、それらを測定するために代表的な指標としては以下のようなKPIがあります。
LTV(Life Time Value)
「顧客生涯価値」といい、顧客が生涯にわたって自社にもたらす利益のことを指します。具体的には顧客が何らかの理由でプロダクトやサービスを解約するまでに、自社へ支払った金額の総額を指します。
つまり、一度きりの取引の顧客よりも継続して利用してくれた顧客の方がLTVは高くなり、どれだけ継続したかでLTVが変わるため、カスタマーサクセスの「KGI」として設定されることが多い指標になります。
LTVの算出方法は様々ありますが、主に以下の計算方法で算出することができます。
- 顧客単価(ARPU)÷解約率(チャーンレート)
- 顧客単価×粗利率×購買頻度×取引期間-(顧客獲得・維持コスト)
- 顧客単価×平均購入頻度×平均継続期間
参照:LTV(ライフタイムバリュー)とは?顧客生涯価値の意味から向上施策まで解説
解約率(チャーンレート)
カスタマーサクセスが長期に渡る顧客との関係構築が重要であると説明した通り、その逆である「解約」は避けなければならず、この指標をKPIとして設定している企業も多いです。
解約率は以下の計算式で算出することができます。
- 解約率 = (1年間の解約数 ÷ 1年間の顧客数)×100%
例えば、あるサービスの1年間の顧客数が1,000人で、そのうち100人が解約した場合、解約率は(100 ÷ 1,000)×100%=10%となります。
アップセル/クロスセル率
アップセルとは、既存の顧客に対して、より上位プランを販売することを指します。一方、クロスセルとは、既存の顧客に対して、別のプロダクトやサービスを販売することを指します。アップセル/クロスセル率は、アップセルやクロスセルに成功した割合を表す指標です。
具体的には、ある顧客がスタンダードプランを購入した場合に、上位のプロフェッショナルプランをアップセルした場合の割合をアップセル率といい、別プロダクトをクロスセルした場合の割合をクロスセル率といいます。
解約率を低減することで利用継続期間が伸び、LTVの向上も期待できます。
5.カスタマーサクセスに取組むメリット
1.顧客課題をプロダクト改善や開発に活かすことができる
カスタマーサクセスは顧客と直接的な接点が多くなる業務であるため、顧客からプロダクトやサービスの改善点や顧客課題を深堀することができます。そしてそれらを社内にフィードバックすることで、プロダクトやサービスの改善に役1.立てたり、機能開発に活かすことができます。
実際、私も以前ご支援させていただいたBtoBやSaaSを展開する企業様では、カスタマーサクセスチームとプロダクトチームが定期的にMTGを行い、顧客から収取した声や改善点の共有及び、プロダクト改善案出しを行いながらサービス改善を行っておりました。
2.解約率(チャーンレート)を低減できる
顧客はプロダクトやサービスの利用を行うなかで、何らかの不満を抱きその状態が続くと解約されてしまうリスクが当然あります。
カスタマーサクセスは顧客に寄り添い、課題を解決するために先回りしてプロダクトやサービスの活用促進や、ソリューションの提供を行うことで不満を抱く顧客を減らし、結果として解約率を低減することができます。
3.新たな提案の機会を生み出すことができる
顧客のビジネスの成長を促進し、長期的な関係構築を行う過程では、顧客課題を解決するために当然様々なソリューションの提案を行う必要があります。
したがって結果として、アップセルやクロスセルの提案の機会を生み出すことができ、顧客単価・LTVの向上に繋げることができます。
6.カスタマーサクセスの導入手順
ここからは具体的にカスタマーサクセスをどのような手順で進めていくのかを解説します。もちろんこれから紹介する手順がすべてではありませんが、一例として参考にしていただけますと幸いです。
1.目的・目標の設定
カスタマーサクセスの導入にあたっては、まず目的・目標を明確に設定することが必要です。現在のLTVや解約率などの指標を確認し、自社において何が課題なのかを明らかにした上で、その課題に対して何を目的・目標にするのかを定義します。
例えば解約率が高いのであれば、「解約率の低減」が目的になるでしょう。この目的が定まれば、解約率をいつまでに何%低減させるのか具体的な目標(KGI・KPI)に落としていきましょう。
そして、次にそれを達成するための戦略やアクションプランを策定します。
2.カスタマーサクセスプロセスの策定
カスタマーサクセスのためのプロセスを策定します。具体的には、顧客のニーズを理解するための情報収集、顧客の状況や課題を把握するための調査、顧客に適切な提案をするための戦略の策定などが含まれます。ハイタッチ・ロータッチ・テックタッチの各セグメントの定義や各セグメントに対するフォロー方針・内容もこの段階で検討します。
3.体制の構築
カスタマーサクセスを実行するためには、カスタマーサクセスチームを構築することが必要です。チームには、CCOやカスタマーサクセスマネージャーなど役割ごとに何名必要なのかを検討し、必要に応じて採用も検討します。
4.カスタマーサクセスに必要なツールの導入
カスタマーサクセスに必要なツールを導入します。具体的には、CRMシステムやweb計測ツール、カスタマーサポートツールなどが挙げられます。
既にCRMやweb計測ツール等必要なツールが導入されている場合は、保持データの持ち方や所在の確認、必要に応じて画面改修などを行う必要があります。
5.カスタマーサクセスチームのトレーニング
カスタマーサクセスチームには、適切なトレーニングを行うことが必要です。トレーニングでは、製品やサービスに関する知識の向上、顧客とのコミュニケーションスキルの向上などを目的とします。顧客に対する汎用的なサポート資料やマニュアルの作成もこのフェーズで行っておきましょう。
6.モニタリングと改善
カスタマーサクセスのプロセスやチームのパフォーマンスをモニタリングし、必要に応じて改善を行います。これまでのフェーズで定義したKPIの進捗やそれらの改善点、提供サービスやプロセスの改善点を洗い出し、対策を検討・実施するサイクルを回します。
7.顧客のフィードバックの収集
顧客からのフィードバックを収集し、改善に反映することが必要です。顧客からのフィードバックは、顧客満足度や製品やサービスの改善に役立ちます。必要に応じてマーケティングやプロダクト、セールスなど他部門も巻き込んで、顧客フィードバックをどのように改善に活かすのかを話す場を設けましょう。
7.カスタマーサクセスの成功事例
それでは先進的な企業はカスタマーサクセスにどのように取り組み成功を収めているのでしょうか?ここではSlackとDropboxの例を紹介したいと思います。
Slackの事例
Slackは、チャットアプリケーションのリーディングカンパニーの1つです。本記事をお読みの皆さまも日頃から利用されている方も多いのではないでしょうか?
Slackは、ビジネスチャットアプリケーションとして急速に人気を集めました。Slackが成功した理由の1つは、優れたカスタマーサポートの提供にあります。Slackは、ユーザーが問題を抱えた場合に、常にフレンドリーなサポートが利用可能であることを保証することに重点を置いています。
当初Slackのカスタマーサクセスチームが抱えていた課題は、以下のようなものがありました。
- ユーザーの成長に伴い、カスタマーサポートリクエストが急増したこと
- 複雑な機能を持つプラットフォームであるため、ユーザーが新しい機能を十分に理解できていないこと
- カスタマーサポートが人手不足であるため、ユーザーのリクエストに遅れが生じること
これらの課題に対して、Slackは以下のようなアプローチを取りました。
①ユーザー向けのチュートリアルやガイドの提供
Slackは、ユーザーがプラットフォームの新機能を簡単に理解できるようにするために、定期的にチュートリアルやガイドを提供しています。これにより、ユーザーがプラットフォームを効果的に利用できるようになり、カスタマーサポートリクエストが減少しました。
②自己解決型のリソースの提供
Slackは、ユーザーが問題を解決するための自己解決型のリソースを提供しています。これには、FAQやコミュニティフォーラムなどが含まれます。これらのリソースにより、ユーザーは自分自身で問題を解決できるようになり、カスタマーサポートの負担が軽減されました。
③カスタマーサポートの拡大
Slackは、カスタマーサポートを拡大することで、リクエストに迅速に対応するようにしました。具体的にはカスタマーサポートチームは24時間体制で対応できるようにし、カスタマーサポートの自動化も導入し、より迅速かつ正確なサポートを提供しています。
以上のようなアプローチにより、Slackは、カスタマーサクセスの向上を実現し、ユーザー満足度を高め、顧客ロイヤルティを構築することに成功しました。
Dropboxの事例
Dropboxは、最初のクラウドストレージプラットフォームの1つとして人気を博し、世界中で数百万人以上のユーザーに利用されています。Dropboxが成功した理由の1つは、使いやすさと優れたカスタマーサポートの提供にあります。Dropboxのアプリケーションは、ユーザーが簡単にファイルをアップロードし、共有することができます。また、Dropboxは、ファイルの共有方法やデータのバックアップ方法などのガイドを提供することで、ユーザーがソフトウェアをより簡単に利用できるようにサポートしています。
当初、Dropboxのカスタマーサクセスチームが抱えていた課題は、以下のようなものがありました。
- ユーザーがDropboxの機能を十分に活用できていないこと
- ユーザーが不正使用された場合のファイル保護の不足
- ユーザーが問題を抱えた場合に、サポートチームに迅速に対応できる体制が整っていなかったこと
これらの課題に対して、Dropboxは以下のようなアプローチを取りました。
1.ユーザー教育の推進
Dropboxは、ユーザーがプラットフォームを効果的に利用するための教育プログラムを提供しています。ユーザーは、Dropboxの機能を十分に理解し、プラットフォームを最大限に活用できるようになりました。
2.セキュリティ機能の改善
Dropboxは、不正使用された場合にファイルを保護するために、セキュリティ機能を改善しました。これにより、ユーザーは自分のファイルが安全であることをより確信し、プラットフォームをより積極的に利用できるようになりました。
3.サポートチームの拡大と改善
Dropboxは、サポートチームを拡大し、より迅速に問題に対処できるようにしました。また、ユーザーからのフィードバックを常に受け付け、プラットフォームの改善に取り組んでいます。さらに、Dropboxは、ユーザーが問題を解決できるように、自己解決型のリソースも提供しています。
8.まとめ
ここまで紹介した通り、カスタマーサクセスは、顧客のビジネス目標や課題を理解し、製品やサービスの活用を最適化することで、顧客の成功を支援する取り組みです。企業にとっては、顧客ロイヤルティの向上や長期的な収益の獲得につながります。
また、顧客が成功することで、企業自体の成功も促進されるという相乗効果が生まれるということがご理解いただけたかと思います。
是非本記事で紹介した内容を参考に、自社のカスタマーサクセスの導入、促進を進めていただければ幸いに存じます。
カスタマーサクセスについてお困りごとがありましたら、お問い合わせフォームより、お気軽にご相談ください。
執筆者 代表取締役社長 / CEO 杉山元紀
大学卒業後、株式会社TBI JAPANに入社。株式会社Paykeに取締役として出向し訪日旅行者向けモバイルアプリ及び製造小売り向けSaaSプロダクトの立ち上げを行う。
アクセンチュア株式会社では大手メディア・総合人材企業のセールス・マーケティング領域の戦略策定や業務改革、SFA・MAツール等の導入及び活用支援業務に従事。
株式会社Paykeに再入社し約10億円の資金調達を行いビジネスサイドを管掌した後、Strh株式会社を設立し代表取締役に就任。
▼保有資格
Salesforce認定アドミニストレーター
Salesforce認定Pardotスペシャリスト
Salesforce認定Pardotコンサルタント
Salesforce認定Sales Cloudコンサルタント